【開催報告】2025年度 芸工教育アワード 表彰・発表会(FD)

未来教育デザインアリーナ(FeDA)では、昨年2025年度に、芸術工学部の中で日々行われている教育実践を発見・共有し、次の教育につなげることを目的として、「芸工教育アワード」を発足しました。2025年度のアワードでは、自薦・他薦あわせて11件の応募をいただいた中から、それぞれの教育的特徴を示す「マイクロクレデンシャル賞」「国際教育賞」「造形教育賞」「情報教育賞」の4つの賞を表彰。その受賞者による発表会を2026年7月29日(水)に行いました。これらの活動は、FD(ファカルティディベロップメント)(※1)を兼ねています。

  1. FD(ファカルティディベロップメント)……大学が教育・学習効果を高めるために組織的に行う様々な取り組み。
目次

芸工教育アワードとは?

目的

  • 芸術工学部の教育活動を、マイクロクレデンシャル計画(総合知教育デザインプラットフォーム:未来教育デザインアリーナ=FeDA)の重要なリソースと位置づける。
  • 優れた教育実践・教育手法・教材開発・学生支援活動等を行った教職員を顕彰し、学内教育の活性化を図る。
  • 受賞者の教育実践を共有・記録・分析することで、学部全体の教育の質的向上と可視化を促進する。

表彰対象

芸術工学部に所属する専任教員(教授を除く)、非常勤教員等が行った正規授業。

2025年度 結果

FeDAより部局に提案し発足した本アワードでは、若手教員の教育実践を優れた授業として表彰するだけでなく、芸術工学部の中で日々行われている教育実践を発見・共有し、次の教育につなげることを目的としています。第1回目となる2025年度は、自薦・他薦あわせて11件の応募をいただきました。

審査を通じて見えてきたのは、「芸工の教育には単純な順位をつけることのできない、多様な価値がある」ということでした。そこで、当初予定していた最優秀賞、優秀賞という構成ではなく、それぞれの教育的特徴を示す「マイクロクレデンシャル賞」「国際教育賞」「造形教育賞」「情報教育賞」の4つの賞として表彰しました。

マイクロクレデンシャル賞

「デザインと日本」
結城円(ゆうき・まどか)……芸術工学研究院 未来共生デザイン部門 准教授

FeDAの方針に特に合致した、国内外に向けたマイクロクレデンシャルとして可能性の高い授業

国際教育賞

「国際交流型デザイン教育プログラム」
井上朝雄(いのうえ・ともお)……芸術工学研究院 環境設計部門 准教授

海外大学の学生と連携した、多方面にむけ国際性豊かで、文化や方法の多層性を厚く含んだ教育プログラム

造形教育賞

「基礎造形」
栗山斉(くりやま・ひとし)……芸術工学研究院 未来共生デザイン部門 准教授
横谷奈歩(よこや・なほ)……芸術工学研究院 未来共生デザイン部門 助教

芸術工学部の伝統的かつ先進的な造形教育として、コース問わずひろく価値をうみ、学生にも浸透している授業

情報教育賞

「感性情報処理論」
西村英伍(にしむら・えいご)……芸術工学研究院 人間生活デザイン部門 助教

芸術工学部では早くから行われていた情報系教育を、昨今の情勢を踏まえて展開した授業

2025年度 芸工教育アワード 表彰・発表会

日 時2026年7月29日(水)17:00〜
会 場九州大学大橋キャンパス 管理棟 大会議室
運 営未来教育デザインアリーナ(FeDA)
司会進行川出絵里(未来社会デザイン統括本部 教授)
概要説明・総評尾本章(FeDAセンター長 芸術工学研究院 教授)※現 FeDA顧問/エグゼクティブ・アドバイザー
ご挨拶尾方義人(FeDAセンター長代理 芸術工学研究院 教授)※現 FeDAセンター長

受賞者の発表は各15分、講評は各5分をベースに進行していきました。以下では、その発表と講評の内容をダイジェストでお届けします。(発表・講評でいただいた受賞のお礼、お祝いのお言葉は、記事では割愛しています。)

マイクロクレデンシャル賞

マイクロクレデンシャル賞

「デザインと日本」
結城円(ゆうき・まどか)……芸術工学研究院 未来共生デザイン部門 准教授

FeDAの方針に特に合致した、国内外に向けたマイクロクレデンシャルとして可能性の高い授業

発表内容
発表を行う結城准教授の写真。左側にはスクリーンがあり、発表スライド(「デザインと日本」概要ページ)が映し出されている。
発表を行う結城准教授

2022年度の大学改革活性化制度(※2)をきっかけに立ち上がった教育プログラムです。授業自体は2020年度からスタートし、今年度より大学院のみ対象となりますが、「Design in Japan A・B・C」という英語で開講する3科目の授業を履修することで、修了証明書を取得できるオープンバッジ(※3)発行認定の教育プログラムとして登録されています。

この教育プログラムではデザイン・アート分野での国際的な競争力の獲得がゴールに設定されており、そのために「デザインと日本」では特に日本というカテゴリーあるいはイメージ、そして展示実践を手段にカリキュラムを構成しています。Design in Japan Aで知識のインプットとその検証を行い、Bで展示の実務的な基礎力を身に付け、そしてCでキュレーションの構成、構想、情報の発信の仕方について実践的に学ぶ構成となります。

単なるインプットや実務経験を得る授業ではなく、ディスカッションベースの授業構成が一つの特徴になります。また最大の特徴として言えるのが参加者の多様性であり、様々な文化的なバックグラウンドを持つ学生が受講しています。例えばデザイン、アート、キュレーション、展示といった要項一つひとつをとっても、受講生の文化的なバックグラウンドによって想定されるものが少しずつ異なってきます。

そのような違いをディスカッションによって経験し、個人個人が自分の固有性を自覚した上で、独自の視点を確立してもらうことを目指しています。また、デザインとアートにおける文化的翻訳を授業のテーマに据え、文化的な作用を起点に、日本のデザインとアートに対する独自の視点を保持することを目標にしています。

Aの授業では、芸術工学部の先生方にオムニバス形式で講義を行っていただいており、今年度は博士課程の学生にもレクチャーをしてもらっています。

実践授業であるBとCは、展示に特化した形で、国際的な情報発信の過程を2段階で構成しています。第1段階としてBの方で、ポスターやキャプションといった展示関連の印刷物の制作、そして展示設置という実務的な経験を積んでもらいます。Bの授業は大学院だけではなく学部にも開いています。

第2段階としてCでコンセプトの設定、いわゆる発信するストーリーの作成を行い、そのコンセプトに基づいて展示品の選定や展示に使う文章の作成を行います。文章は日本語、英語の2言語で作成しています。Cは大学院のみに開講している授業となります。

BとCはそれぞれ受講でき、また合わせての受講も可能な構成にしています。

昨年度は福岡アジア美術館(※4)のレジデンス事業(※5)についての展示実践を行いました。展示のコンセプトを作り、またレジデンスアーティストにインタビューを行って動画を作成して展示しました。そこで作られたものをもとにBの方で展示空間のデザインを行いました。その際、単に展示空間あるいはポスターといったものを作るだけでなく、国内外のインプットをゲストレクチャーあるいはエクスカーションという形で行った上で、受講者が独自の視点を確立できるような構成としました。

最終的に2026年4月に福岡アジア美術館で成果展を行いました。この教育プログラム全体の総合あるいは成果として、受講生によるキュレーションや個人の作品も展示するということにつなげています。

  1. 大学改革活性化制度……大学や部局の将来構想の実現に向け、教育研究活動の強化・向上に必要な教員ポスト(人事ポイント)を一定期間措置する制度。(九州大学では令和6年度より一時休止)
  2. オープンバッジ……知識・スキル・経験の修得を証明する、国際基準規格に基づいたデジタル証明書。
  3. 福岡アジア美術館……福岡県福岡市にある美術館。アジアの近現代の美術作品を系統的に収集し展示する。
  4. レジデンス事業……福岡アジア美術館が開館当初から行っている、国内外のアーティストや研究者を一定期間福岡に招へいし、創作活動や発表の機会を提供する事業。
講評

村木里志(むらき・さとし)……芸術工学研究院 人間生活デザイン部門 教授

教育プログラム「デザインと日本」のプロジェクトでは、日本のデザインを理解し、それを世界に発信できる人材を育成するという目的に加え、日本人と多様な国・地域の留学生が共に学び交流する場を作ること、英語で授業を行うこと、分野を横断的に展開すること、そして成果を対外的に発信するというような様々な挑戦に取り組んできました。

結城先生はDesign in Japan A・B・Cの3つの科目を有機的につなげ、多くの先生方の力を結集させて、これらの挑戦を着実にされてこられました。その積み重ねによって、毎年多くの留学生が受講する形にもつながっています。こういった成果は結城先生の教育力、マネジメント力、そして熱意があってこそ実現でき、そしてこの賞につながったのかなと思います。

一方で、多くの受講者が交換留学生を含む留学生であり、日本人の学生が少ないという課題があります。修士学生が留学するときに履修相談をすることがあると思いますが、そのときに国際性の重要性に加えてそれを養う選択肢の一つとしてこのようなプログラムがあるということを、学生にご紹介いただきたいと思います。

講評を聞く結城准教授と講評を行う村木教授の写真。二人とも笑顔で和やかな雰囲気。
講評を聞く結城准教授(左)・講評を行う村木教授(右)

国際教育賞

国際教育賞

「国際交流型デザイン教育プログラム」
井上朝雄(いのうえ・ともお)……芸術工学研究院 環境設計部門 准教授

海外大学の学生と連携した、多方面にむけ国際性豊かで、文化や方法の多層性を厚く含んだ教育プログラム

発表内容
発表を行う井上准教授の写真。左側にはスクリーンがあり、発表スライド(学生作品ページ)が映し出されている。
発表を行う井上准教授

私は、芸術工学部の中にある組織、環境設計グローバル・ハブ(eghub)(※6)のハブ長をやっています。eghubは2017年に発足し、残念ながら昨年の9月に癌でお亡くなりになられた土居義岳先生が初代ハブ長で、私がそれを引き継いで頑張っております。

世界中には、建築や都市、ランドスケープなどをデザインする環境設計と近い考え方を持つ教育機関がたくさんあります。eghubは、そういった海外の大学と連携を取りながら共同研究や共同設計(スタジオ)を行うために、ハブとなって世界とつながることを目的とした組織になります。来年で10年を迎え、現時点で東アジア、東南アジア、南アジア、アフリカ、ヨーロッパなど世界28カ国・55地域に及ぶパートナーシップを築いています。人口の多い地域から押さえていこうと現在は特に南アジアに力を入れており、今後、アフリカの方まで触手を伸ばしていこうと思っています。

「国際交流型デザイン教育プログラム」は、eghubのパートナー校である海外の大学と、英語を用いた共同スタジオを実施することによってデザイン教育の国際化を図ろうというものです。英語での設計行為やプレゼンテーションを通して、グローバルに活躍する人材の育成を目指しております。日本人の学生があまり海外に行かなくなっている中で、やはり芸術工学部の学生には世界に羽ばたいてもらいたいとの思いで始まりました。

九州大学はMOU(Memorandum of Understanding)(※7)の締結などによって短期留学の道も開いていますが、学生にとって半年間や1年間留学するのはやはりハードルが高いものです。この国際交流型デザイン教育プログラムでは、2週間や10日間という短期プログラムによってそのハードルを飛び越えやすいようにしています。

毎年、サマースクールとスプリングスクールの2本立てのプログラムを実施しています。昨年のサマースクールでは、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学から学生を受け入れ、熊本で「熊本建築ヴィデオグラフィー」というワークショップを実施しました。その後、9月にイギリスのラフバラー大学に芸術工学部の学生を連れていき、1週間という短い課題でしたがパビリオン作りを行いました。どちらの大学ともMOUを結んでおります。

3月のスプリングスクールは、ここ4〜5年はアジアを中心に実施しています。タイのカセサート大学と仲良くしているのでタイを中心に、隣のカンボジアやラオスなど周辺国も一緒に行っています。今年の3月は、タイのバンコクとラオスのビエンチャンの2カ所にわたりプログラムを行いました。ラオス国立大学とはまだMOUを結んでいないので、いまMOUを結べるよう交渉しています。

今年度の9月のサマーコースはイギリスのマンチェスターに場所を移して昨年同様のプログラムを展開し、3月のスプリングコースも少し足を伸ばしてバングラデシュの大学へ学生と一緒に訪れようと計画しています。

昨年のイギリスでは、ラフバラー大学の先生に都市を案内していただくスタディツアーも行いました。九州大学の学生は英語が難しい面もありましたが、やはり建築や都市、ランドスケープの世界では模型制作や絵を描くことなどを通じてコミュニケーションできるので、1週間も経つとみんな仲良くコミュニケーションが取れるようになり、これは素晴らしい成果であったと思っています。

3月のバンコクとラオスのワークショップでも、カセサート大学の先生にバンコクのショッピングセンターなどを案内してもらいました。こちらでは学生はみんな英語が母国語ではないので、イギリスのときよりもコミュニケーションが取れているように感じました。

とても短い期間のプログラムですが、これをきっかけに半年とか1年の留学に羽ばたいていく学生を私は求めています。ですがなかなかそこにつながっていないのが現状であり、つなげていくことが今後の課題だと思っています。

最後に、昨年のサマースクールで、熊本で実施した「熊本建築ヴィデオグラフィー」という建築をテーマにしたワークショップの説明をさせていただきます。

建築は建てられてから20〜30年で壊されてしまうものが多く、そういう建築への愛を醸成するようなものとして、また一般の人々に建築の魅力を伝えるものとして動画を作ろうと昨年から始めました。昨年の8月末から9月頭にかけて行い、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学の学生約20名、芸術工学部の学生約15人が参加しました。いずれの大学も建築や環境設計のみならず、いろいろな分野の専門の学生がミックスしてワークショップを行うという面白いプログラムになりました。

いろいろな建築を見に行き、グループごとにどの建物を対象にするかを決め、実際に建物の魅力を彼らなりに探し出していきます。例えば、熊本市現代美術館(※8)ではキュレーターの方にキュレーションの説明を受けたりしながら建築の魅力を探っていきました。それから動画を撮影したり、撮影したものを持ち寄って、みんなで議論しながら構成を考えていきました。10日間のプログラムでしたが、建築や環境設計が専門でない学生も含めみんなが建築や都市について熱く語り合っている姿を見ると、私も感動してちょっと涙腺が緩くなってしまいました。

ここで、完成した動画を皆さんと共有させていただきたいと思います。

(2本動画を視聴)

ありがとうございました。

  1. 環境設計グローバル・ハブ(eghub)……環境系を中心に2017年に設置された部局内センター。領域横断し創造的な環境設計のグローバル展開を目指し、人社系、設計・デザイン系、造園系、建築系などの研究者が、主にアジア圏の大学と連携し、環境設計という専門的な観点からの教育やアジア圏の環境整備に関する研究活動等を展開している。
  2. MOU(Memorandum of Understanding)……大学において、海外や国内の大学・研究機関の間で結ばれる学術交流協定や了解覚書。九州大学協定締結校はこちらを参照。
  3. 熊本市現代美術館……熊本県熊本市にある現代美術館。様々な展覧会やコンサート、イベントを盛んに行っている。
講評

田上健一(たのうえ・けんいち)……芸術工学研究院 環境設計部門 教授

環境設計コースは10年前から国際化を強化し、多くの海外大学と関係を作られるなどご尽力いただいています。日本の建築は、実は技術も文化的な側面も世界をリードしているのですが、建築の教育自体はというと俗に言う「ガラパゴス」になっていて、そのほとんどが工学部の中にあります。建築が技術科教育と建築教育を同時にやる中で、我々環境設計コースでは井上先生を中心にプロジェクト型にして、地域や社会、場所の問題を解決していくことをその中心に据えています。

同時に環境設計コースでは、国際通用性を持った資格も含めての教育にしていこうとしています。単位の互換やマイクロクレデンシャルによって海外の大学と共通化してプログラムを実施するという井上先生の活動は、これからどんどん巡って国際的なプログラムとして展開・発展していくことが十分期待できます。今後も精力的に活動していくことを期待しています。

講評を聞く井上准教授と講評を行う田上教授の写真。真剣な雰囲気。
講評を聞く井上准教授(左)・講評を行う田上教授(右)

造形教育賞

造形教育賞

「基礎造形」
栗山斉(くりやま・ひとし)……芸術工学研究院 未来共生デザイン部門 准教授
横谷奈歩(よこや・なほ)……芸術工学研究院 未来共生デザイン部門 助教

芸術工学部の伝統的かつ先進的な造形教育として、コース問わずひろく価値をうみ、学生にも浸透している授業

発表内容

栗山

「基礎造形」という授業は九州芸術工科大学の時代から続いていて、本部局の伝統的な実技授業とされております。私は学部改組のときに着任したので、本日は改組以降の現在の基礎造形について説明いたします。

基礎造形はデザインリテラシー科目群(デザインリテラシー科目をはじめとした共通科目群)の一つで、全コースの学部2年生を対象とする実技授業であり、基礎造形ⅠからⅣの4つの科目から構成されています。基礎造形ⅠとⅣは横谷先生、Ⅱは斎藤一哉先生と私、そしてⅢは私が担当し、それぞれ非常勤講師の先生にも入っていただいています。また全体の監修役として知足美加子先生に入っていただいています。


基礎造形Ⅰ:横谷

平面の基礎的なデッサンや描画などを通して、造形美術の基礎的な知識と技術を理解して実践していく演習の授業です。単純に絵を描く技術の向上を目指すのではなく、それぞれの学生がいま行っている研究において将来的にどういかしていけるのかというところに重点を置いてカリキュラムを組んでいます。7回の授業を通して全員が1冊のスケッチブックを仕上げていき、最後8回目の授業で全体の流れを発表しながら講評会を行います。

カリキュラムは基本的な鉛筆デッサンを中心に、水墨画やペンを使った点描画、色彩を伴う構想画というように様々な画材を使って平面作品を制作していきます。毎年、学生の様子に合わせて課題のアップデートを行っており、例えば一昨年まで1回の授業でクロッキーの授業をしていましたが、昨年からは毎回の授業で冒頭7〜8分ほど時間をとってクロッキーを行い、描くことに慣れてもらうようにしました。その際、指名して数人の学生にモデルをやってもらいます。モデルをやることで身体の仕組みが理解でき、描く側としての理解もできます。

すべてのコースの学生が受ける必修授業なので、これまで絵を描いたことがない学生もいます。そんな中で例えば、楽器を描く課題のときに音響コースの学生から「この楽器のここの部分が細くなってるなんて今まで気づかなかった」という感想もあり、視覚的に集中して見て描くという経験はやはり必要なのだと感じています。

共同発表者の栗山准教授と発表を行う横谷助教の写真。左側にはスクリーンがあり、発表スライド(クロッキーのページ)が映し出されている。
共同発表者の栗山准教授(左)・発表を行う横谷助教(右)

基礎造形Ⅱ:栗山

ものの認識の仕方、感じ方、イメージやアイデアの発想に焦点を当てた実技授業を行っています。この授業に関しては内容が変わることが多く、本日は今年度実施した内容を説明します。

基礎造形Ⅰと同様に、結果として出来上がる作品だけではなく、制作途中のプロセスも重視することによって発想方法の可能性を広げる試みを行っています。五感を使って様々な素材を用いていろいろな造形を体験してもらい、最終的にポートフォリオを作成して提出してもらいます。なお基礎造形Ⅱでは、在学中に工作工房(※9)を有効活用できることを目的として、木材加工の安全講習及び技能講習を授業内で実施しています。

演習では、最初にフロッタージュ(凹凸した箇所に紙を置き鉛筆などで模様や形を写しとる)を作成する研修を行います。学内の好きな場所に行きA4サイズのフロッタージュを10枚程度とり、その中から面白いと思う線を複数選び、トレースして1枚の紙の中に合成していきます。そのイメージを合板に写しとり、彫って木版にし、紙に転写して版画を制作しました。

また、最初にとったフロッタージュを一枚の紙にコラージュして一つのイメージを作り、キャンバスに写しとるという制作も行いました。このときも線は任意で選びながら写してもらいます。そのあとに糸を使って手芸的な方法で凹凸感を作ったり、半立体的に糸を垂らしたり、糸の使い方を自由に工夫してもらい、もともとある線から延長して新たに様々なイメージを作り出すということをやっています。

次に、音を聴きながら粘土で形を作るという聴覚情報を視覚化するトレーニングのようなものもやってみました。3つの異なる楽曲を聴きながら3つの異なるイメージを造形しました。

そして最終的な課題として、自分で選んだ楽曲をモビールで表現してもらいました。モビールは形だけでなく動きも出てくるので、空間の概念も入ります。つまり音のイメージを、木材や金属を用いて、動きや空間で表現するということをやりました。

発表を行う栗山准教授と共同発表者の横谷助教の写真。左側にはスクリーンがあり、発表スライド(フロッタージュのページ)が映し出されている。
発表を行う栗山准教授(左)・共同発表者の横谷助教(右)

基礎造形Ⅲ:栗山

金属加工、主に鉄の板材と棒材を加工して立体作品を制作していきます。いろいろな工作機械を使うのですが、特にガス溶接機を使って火による加工を伴う制作を体験してもらいます。近年は事前にスケッチはせず、あえて何もプランを作らずに、まず素材を触ってみて手を動かしながら考えるような指導方法をとっています。

つまり、ドローイングを描いたりマケット(模型)を作成したりするときのプロセスに似た、アイデアの獲得などの制作実践を体験してもらいます。金属加工は技術的に難しくて失敗することが多いのですが、それを逆にポジティブに捉え、エラーのような情報や、偶然に発見した現象みたいなものからアイデアを造形にいかしていく方法を指導しています。この授業も工作工房の有効活用を目的に、金属加工の安全講習と技能講習を初回に行います。


基礎造形Ⅳ:横谷

「描くことについて考える」「身体で学びとる」というテーマでフレスコ画の制作を行っています。古典技法であるフレスコ画は、乾き切っていない漆喰に顔料を染み込ませることで何千年も保つ絵を描くという壁画の技法です。

なぜ現代にこの古典技法をあえてやるのかというと、その何千年も鮮やかに色彩を保つ仕組みを、芸術工学部の学生だったら現在の素材に置き換えて考えていけるのではないかと思い、昨年度から開始しました。フレスコ画の専門家で東京藝術大学ほかいろいろなところでフレスコ画を教えている椎葉聡子先生を非常勤講師に迎え、一緒に工夫しながら授業設計をしました。

授業では、下地となるモルタル(セメント、砂、水を練り混ぜて作る建築材料)を練って作るところから始めます。モルタルがどれくらい乾燥したら漆喰を塗るのか、それを肌触りで感じ取っていきます。また、通常の絵画では既製品のパネルを使いますが、この授業では板を切ってパネルを作ることも経験します。

下絵の転写も針で点々を打って描画するという古典技法で行います。生乾きの漆喰に顔料で手早く絵を描いていくのですが、漆喰が乾き切らない短時間内で素早く描くのはなかなか大変です。最後に希望する学生のみになりますが、木枠に柿渋(渋柿を搾って作る天然塗料)を塗ることも行っています。このように計8回にわたって、とにかくいろいろな技法を経験していきます。

  1. 工作工房……九州大学大橋キャンパスにある、基礎造形をはじめとする各種造形授業やモデル制作、各コースの卒業研究ならびに実体制作等を行う施設。
講評

知足美加子(ともたり・みかこ)……芸術工学研究院 メディアデザイン部門 教授

基礎造形は前身の九州芸術工科大学が始まって以来、ずっと続いてきた授業であり、どの同窓生の話でも基礎造形と言えばひと連なりにつながっているというような共通言語的な授業になります。私も30年ほど基礎造形に関わってきたので、今お二人が行われていることがどれだけ大変かということがよく実感できます。

教員も学生もいろいろな経験をするのが基礎造形の授業であり、基礎造形を語ることは、みんなの心を一つにすることになります。基礎造形の授業がなぜ大事なのかというと、素材はそのまま世界になるからです。頭で考えるだけではなく、汗を流したり手を動かしたりしないと物事は変わっていかないし、また自分の内面に問わないと新しい価値観は生まれません。なにがいいか悪いかというのは、自分の中にしかないんです。それをどうやって導くか。人に褒められるためではなくて、本当に良いと思うものをどう作るかという組み立てが必要となってきます。

それと一番は、芸術工学部ではやっぱり異分野への尊敬も作らないと駄目なんです。だいたいの人は異なるものを過小評価してしまいがちです。ものづくりの難しさ、ものが出来上がるときの嬉しさとかそういう気持ちを心から感じることができてこそ、ディレクターの立場になったときに他者の苦労がわかるようになります。だからこそ基礎造形を2年生で最初にやることも本当に大事なことだと思っています。

これからも学生には体験からにじみ出る感覚と知恵を身に付けてもらいたい。感じることのコミュニケーションはAIにはまだできないので、こういう感覚を培った上で、学生にはAIなどの技術を使える人になってもらいたい。栗山先生と横谷先生のお二人ならそのような指導ができると思います。これからも頑張ってください。

講評を聞く栗山准教授と横谷助教、講評を行う知足教授の写真。和やかな雰囲気。
講評を聞く栗山准教授(左)と横谷助教(中央)・講評を行う知足教授(右)

情報教育賞

情報教育賞

「感性情報処理論」
西村英伍(にしむら・えいご)……芸術工学研究院 人間生活デザイン部門 助教

芸術工学部では早くから行われていた情報系教育を、昨今の情勢を踏まえて展開した授業

発表内容
発表を行う西村助教の写真。左側にはスクリーンがあり、発表スライド(顔じゃんけんのページ)が映し出されている。
発表を行う西村助教

この授業は学部2年夏学期8コマ1単位の授業で、演習型で進行しています。昨年度が1年目の授業で、いま2年目です。

最初に2025年度に実施した「顔じゃんけんゲーム」をご紹介します。パーが口をアーと開ける形で、チョキが口をチュッとする形、グーが唇をグッと結ぶ形といったふうに口でじゃんけんをするゲームをまず私が作りました。それを学生がコードを読んで改造して提出するという演習の授業です。WindowsでもMacでも完全利用でき、ふつうのパソコンでも問題なく動くアプリケーションです。

この「感性情報処理論」の授業で大事にしていることが二つあり、一つ目がデータの形の授業であるということです。授業の序盤では、学生にまず画像データの形を知ってもらいます。学生の中には画像データの構造をなんとなく知っている人もいれば、考えたことのない人もいるので、顔じゃんけんをするにあたって扱うデータはこういう形をしているというのを皆さんに見てもらいます。

授業では、プログラマーが使う用語についても随時触れていきます。情報処理の授業や教科書でよく出てくるのがアルゴリズムとデータの話なので、この二つを意識してもらった上でまずデータに着目し、それからアルゴリズムの仕組みを説明していきます。それらを理解した上でプログラムを一行一行見てみると、そんなに難しいことではないわけです。

プログラムを理解しようと思うと、ひたすら書くみたいなイメージがありますが、中小企業でITエンジニアを長年やってきた私の経験を振り返ると、読んでいる時間がほとんどでした。書く時間はわずかで、読むことが大事。まずは読みましょうと学生には繰り返し伝えています。

また、特にインダストリアルデザインコースのように、将来的にプログラムを生業とする人が多くないコースにおいて、より重要になるのがデータを抽出表示するアルゴリズムの存在です。データをいきなり生で渡されても情報が多すぎてよくわかりませんが、自分が何を見たいかが明確であれば、特定のアルゴリズムを通して欲しい情報だけを抽出して画面に表示することができるわけです。データを扱うときにはまずどんなデータがあり、自分がどんなデータが欲しいかを知らないと駄目だということも繰り返し伝えています。

授業でもう一つ大事にしているのが、ステップ・バイ・ステップです。プログラムにはかなりの量のコードを要するので、私の授業ではコードを12個に分割します。授業は8コマなので、1コマ2個ぐらいのペースで少しずつ説明しています。ちなみにデアゴスティーニは最終巻まで全部買わないと完成しませんが、私の授業では第1巻からちゃんと動きます。1巻ごとにアルゴリズムの箱が1個ずつ増えていくようなイメージで、12巻ぜんぶ揃えるとゲームができるデータになっているという仕組みで作っています。

データとアルゴリズムの関係もある程度伝えられ、コードの読み方もかなり細かく説明でき、またゲームも皆さん自分で改造して発表してくれ、最初にしてはなかなか良い授業ができたなと我ながら思っています。一方で、卒業研究とダイレクトにつながる授業にした方がよかったかなという思いと、顔を素材にすると公共の場で発表しにくいこともあり、今年度は別のものをやろうと思って用意したのがSD法(セマンティック・ディファレンシャル法)(※10)というアンケートの方法です。

アンケートを回答して集計するという一連のプロセスを、ステップ・バイ・ステップでコードを書き、スライドを作って授業を行っています。インダストリアルデザインコースは人間工学系の先生の授業と、いわゆるデザイン系の先生の授業が割と分かれていて、断絶ではないんですけれども文化が違います。そこをなんとか統計やデータという概念でつなげられたらなということも考えていて、授業ではデザインでもデータはすごく大事だという話を積極的に入れるようにしています。

  1. SD法(セマンティック・ディファレンシャル法)……反対の意味を持つ形容詞の対(大きい・小さいなど)を用いて、多段階で評価する調査方法。企業やブランド、商品のイメージ評価などでよく利用される。
講評

丸山修(まるやま・おさむ)……芸術工学研究院 未来共生デザイン部門 教授

従来のプログラミング授業では、フローチャートや制御構造などを行いますが、この授業はそれから脱却されているというか、データの形が特に重要で、それを可視化するというところに感銘を受けました。また、先ほど基礎造形の話で素材を感じるという話がありましたが、深いところでは同じだなと思いました。計算機の中に存在しているデータを、プログラミングする人が感じることは非常に重要です。プログラムをする上でどういう形になっているかを把握することも大事だし、数値の塊がどういう構造なのかを可視化することを重要視して実施されているところは非常に参考にしたいところです。

いま第3次とか第4次産業革命だと言われていて、私もClaudeという言語モデルを使っていますが、入出力の関係を書いてしまえばそれを満たすプログラムを完璧に書いてくれます。西村先生がされているようにコードを直接書くというよりも、コードを読んで、それをどのように手を入れていくかの方がこれから重要になってきます。

芸術工学部の理念として「技術の人間化」という言葉がありますが、それと似たような言葉で意味は逆になりますが、イギリスで発生した産業革命のときの現象を特徴づける言葉として「労働の機械化」という言葉があります。いまAI革命の中にいて脳機能の一部の機械化が生じていると思います。そのような時代においてどのようなところに人が介在し、どういったところを機械に任せるかということが重要になってきています。

半分冗談で半分深刻な問題だと思っていますが、例えば何かの申請書を書くときにその一部はもうAIに頼ってしまっている。さらには審査する側もAIを使っているという笑えない状況があると思います。プログラミングの授業に関して、西村先生はこれから人はどういったところで頑張らないといけないのかを考えながら指導されています。そういった意味でも非常に素晴らしい授業になっていると思いました。

講評を聞く西村助教と講評を行う丸山教授の写真。二人とも笑顔で和やかな雰囲気。
講評を聞く西村助教(左)・講評を行う丸山教授(右)

2026年度 芸工教育アワード応募受付中(学内限定)

今年度(2026年度)も芸工教育アワードを実施します。応募締切は2027年2月10日(水)を予定しておりますので、詳細につきましては、芸術工学部の教員宛にFeDAよりお送りしております案内メールをご確認ください。

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